還暦の終の棲家で「当たり前」を捨てた理由
今まで、お仕事の関係などライフスタイルに合わせて、ご自身の住む場所は二の次にしてこられたM様。 実は、私たちが新築を手掛けさせていただくのは、これで「3件目」になります。
還暦を迎えられたM様が、これからの人生を過ごす「終の棲家」として求められたのは、至ってシンプルなものでした。 「静かで、暖かく、メンテナンスに悩まされない家」
これまでご家族や仕事のために頑張ってこられたからこそ、老後は家の中での些細な我慢やストレスから完全に解放されたい。これは単なる要望というよりも、切実な「願い」でした。
家がうるさく、寒いのは「環境のせい」ではありません
まずは「静かさ」の追求から、現在のお住まいの問題点を一緒に探しました。 商業地の近くの住宅団地なので、まあまあ音もします。家の中にいても外の音が聞こえて落ち着かない。
これは、日本の住宅で当たり前のように採用されている「第三種換気」の給気口の可能性が高いです。 これは極端に言えば「壁にいくつも貫通穴を開けている」状態です。そんな物理的な穴が開いていれば、外の騒音が入ってくるのは当然のことです。 このことから音と熱の出入りを根底から絶つために「第一種熱交換換気」を採用しました。
ヒーターを手放せない生活からの解放
次は「暖かい家」です。 現状は各部屋にエアコンやファンヒーターを置き、廊下やトイレに出るたびにゾクッとする寒さを我慢して生活されていました。この「部屋だけを暖める」という常識も、住む人に無意識の我慢を強いる古びた考え方です。
言葉や数値で説明するより、真冬の完成見学会で「体感」していただきました。 床下エアコンによる全館空調の家に入った瞬間、足元から包み込まれるような暖かさ。「家の中で、どこにいても寒くない」という感覚に、M様は大変驚かれていました。 足に触れる無垢材の心地よさも相まって、この瞬間に「これからの人生、もう寒さを我慢しなくていいんだ」という深い共感が生まれ、家づくりの構成がカチッと固まりました。
桜と山を「ぼーっと」眺める至福の時間を守り抜く壁
会社近くに見つけた敷地は、東に粟ヶ岳、近くに桜並木が見える素晴らしいロケーションでした。 この景色を窓に取り込み、冬の寒さも外の騒音も一切気にせず、春夏秋冬の移ろいを見ながらただ「ぼーっと」心からリラックスできる空間。
この究極の癒やしの時間を実現する家つくる共通認識で確定しました。
外の音をシャットアウトするため、窓はトリプルサッシ。 壁はただ分厚くするのではなく、遮音と吸音を考えた多層構造です。 外装材はあえて木に隙間(コウモリが入らない6mm)を空けて張る「ファサードラタン」。これにより、防風・透湿防水シートは施工しつつも外装材で密閉しないため、音を反射させず、壁の中のグラスウールが持つ吸音ポテンシャルを最大限に引き出します。同時に通気性と水切れが良くなり、家そのものが長持ちする納まりにしました。遮音は室内側の石膏ボードと耐震面材のモイスになります。
最終的な性能はUa値0.21、ηAC 0.8とHEAT20 G3グレードの超高性能住宅です。
超高断熱だからこそ直面した「冷房」という難題
冬の暖かさは約束されましたが、設計における最大の難題は「夏の冷房」でした。 超高断熱住宅では、少しの冷房で冷えすぎたり、直接風が当たる不快感が出たりします。暑くても寒くてもダメ。ご夫婦で好みの温度帯も違います。また、入った熱が抜けにくいことも問題です。
そこで「家全体を涼しく保ちつつ、好みに合わせて風量で調整する」という空調設計を行いました。 家全体の熱負荷計算と個室ごとの負荷計算を行い、エアコンの配置を緻密に計画。風の行き送りのために天井を格子にして空気を流す設計が確定しました。夏は床下エアコンで弱暖房を送りながら小屋裏エアコンで優しく除湿・冷房し、冬は床下エアコンのみで加湿は浴室を利用します。
「ずっといい家」を作る秘訣とは
毎回、このような流れでお客様の要望に対して「何が最適になるか」を予算と相談しながら進めています。
ただのデザインで仕様を決める訳ではありません。 お客様の「もう我慢したくない」「心から安らぎたい」という感情に深く寄り添い、工学的な観点から最適な答えを導き出す。
この「理由のある設計」こそが、何十年経っても快適に暮らせる「ずっといい家」を作る秘訣ではないかと考えています。